本の話。
『奇跡のフォント(高田 裕美)』という本を読んだ。
Twitter上でもフォローさせていただいている高田裕美さんの半生と、開発されたUDフォント「UDデジタル教科書体」の想いと縁が紡がれていく物語だ。
UDは「ユニバーサルデザイン」のことで、シャンプーとリンスのボトルを識別するギザギザに代表される誰にとっても使いやすく、わかりやすく工夫されたデザインのことだ。
「文字でユニバーサルデザイン?」と首を傾げる人も多いかもしれない。
僕は盲学校で勤務していた経験がある。
弱視の子どもたち一人ひとりに合わせて文字のフォントや大きさ(ポイント)を調整してプリントを作っていたので、文字のフォントが与える硬そうやポップといったイメージだけでなく、「読みやすさ」という影響はよく知っている。
視覚障がいだけでなく、文字を読むことが難しいディスレクシアという障がいもある。ASD自閉スペクトラム症の子たちの中には明朝体のトメの部分にあるウロコが気になって仕方がないという子もいる。
盲学校関係の研究会などでUDフォントのことは耳にしていたし、UDデジタル教科書体はWindows10に標準搭載されているので、盲学校でも、転勤した今の支援学校でもお世話になっている。
本は高田さんの誰にでも読みやすい文字をという想い(実は誰にでもというのは本当に難しいのだけれども)と、さまざまな人たちとの出会いが紡ぐ縁が紡がれていく…まるで小説を読み進めているような世界観だ。
さらに盲学校時代やそれ以外でも個人的な知り合いの方々が登場し、自分がこのドキュメンタリー映画の一員になったようだ。
僕は本を読んでいるときに頭の中で映像が再生されるタイプなのだけれども、あの先生やあの先輩はリアルに再現されていた笑。
本を読んでいて純粋に小説のように楽しむだけでなく、別の思いが浮かんでくる。
「当たり前のように使っているUDデジタル教科書体は、当然ながらはじめからそこにあったわけではなく、こうやって誰かが想いを持って前に進んできた結果なんだ」
弓矢や文字や紙や火薬や車輪や電球や
そんな人類史を変えた大きな発明のストーリーは広く知られている。
でも僕たちが知らず知らずのうちにお世話になっているいろんなモノもどこかの誰かのお陰なのだ。
そう気づかさせられた。
少なくとも僕自身が今後UDデジタル教科書体を使うときには高田さんをはじめいろんな人の紡いできたストーリーがあることを思い出すのだろう。
それは他の人は知らない、僕だけがそっと隠した秘密の宝物みたいな。
ほのことを思い出すなかななんて考えると、日々の小さな楽しみが1つ増えた気がする。
今日も当たり前に使わせてもらう奇跡に感謝して。