本の感想。
『ツバキ文具店(小川糸)』という本を読んだ。
代書屋という誰かの代わりに手紙を書く仕事をしている女性、鳩子が主人公の物語だ。
離婚の挨拶文、かつての幼馴染みへの近況報告、字が下手な人の代わりの手紙、亡き父から母への手紙、絶縁状、そして亡き先代への手紙…。
それぞれの手紙に対して、文面はもちろん紙や道具、切手にもこだわり、鳩子が紡いでいく手紙を読んでいくうちに、最近書いていなかった妻への手紙を書こうと思った。
付き合っていた頃は、記念日や誕生日、イベントのプレゼント、年賀状など手紙を送っていた。
実は妻からの手紙は全部取ってある。
結婚して一緒に暮らし、子どもが大きくなる中で、いつの間にか手紙を書く頻度は減っていった。
何を書く?
決まっている。
感謝の言葉だ。
それと…
手紙には書かなかったけれど、心の中に大切にしまっている小説がある。
『ワンダフルライフ』
小説のストーリーを要約する。
人は死後、ある場所にいく。
それから7日間のうちに人生の中での一番の思い出を選ぶ。
そしてその思い出の場面を再現し、その思い出だけを胸に次の世界へと旅立つのだ。
この本を読んで、当時高校生だった僕は考えた、もちろん、自分の人生の中での一番の思い出を。
最初は女の子に告白する場面だったり、バスケの引退試合で決めたシュートだったり、初めて付き合った彼女だったりした。
でも、欲張りな僕は一つには決められそうにない。
だから今の妻と出会ってからは沢山の写真を撮った。手製のアルバムもつくった。
結婚式の(僕の中での)テーマ曲はコブクロのMillion Filmsだった。
その曲の歌詞通り、彼女との撮り切れないほどの思い出を眺める、それが僕の人生の中での一番の場面になるのだ。
娘が生まれ、息子が生まれ、気付けば思い出が山ほどできた。
今では二人だけでなく思い出は4人分ある。
思い出は織り重なり、これからも紡がれ続けていくのだろう。
これを全部眺めるのは大変そうだ笑。
撮った写真を見ると亡くなった祖父のことを思い出す。
写真が好きで毎回のように集合写真を撮り、中学・高校生くらいの頃はそんな写真を撮ることが大嫌いだった。
でも自分が働き出し、祖父に陰りが見え始めた頃、祖父と祖母が山ほどもあるアルバムにまた新しい写真を挟んでいくのを見ると、写真への想いは変わっていった。
祖父が亡くなっても、祖母はまだせっせとアルバムを紡いでいる。
そうして、今は僕が祖父のように写真を撮っている。
そしてこの先も撮り続けていくのだ。
願わくば、この思い出が在らん限り増え続けることを。