本の話。
『正しいパンツのたたみ方(南野 忠晴)』 という本を読んで思ったこと。
もう10年も前のことだけど、教諭2年目になるその年に初任者教員の前で話をするという機会をいただいた。
今思い返すと荒削りで方向違いのことがたくさんあったのだけれども、どこかの研修会で聞き齧った「4つの自立」、生活の自立、経済の自立、性の自立、精神の自立についても語ったのを覚えている。
この本の中でその4つの自立にまた出会うなんて。
支援学校ではいわゆる教科科目の知識よりも、働くため、生活するための学びに重きを置く傾向がある。「自立活動」という授業があるし、その学習指導要領もある。
学校で自立に向けた勉強をすると言われてもあまりイメージできないかもしれない。でもこの本にある家庭科はその自立にうってつけの教科だろう。衣食住の洗濯やアイロン、裁縫、買い物、料理、生活に必要なお金の計算、僕は社会科の教員なので家庭科と重なる学びの部分があるし、そんな生活に繋がる内容を大事にしてきた(スーパーで売っているものの値段調べや1ヶ月の生活費を考える、悪徳商法対策などだ)。
保健体育なんかも自立した生活に向けては大切だと思うのだけれども、家庭科や保健はいわゆる副教科という扱いで受験で採用されないので後回しにされがちだ。
でも、学校教員が大事にしているのは教科の知識だけではないはずだ。
・毎日元気に登校すること。
・与えられた課題を期日までに提出すること。
・ルールを守ること。
・相手の話を聞くこと。
・わからないことを質問したり調べたりすること。
・できないことはできないとはっきり断ること。
・お互いに話し合って結論を出すこと。
それらは知識の獲得だけでなく、仕事や家庭での生活にとって大事なことだという認識があるからこそ、教科書に載っていないにも関わらず教員は繰り返し子どもたちに伝えるのだろう(その内容と現実世界のギャップがあることを否定はしないが)。
本の内容について、著者の南野さんは英語教員から家庭科の教員免許を取得する。それは、家庭での家事育児の経験と、心(やる気)の問題ではなく、生活の問題が原因と思われる、授業中にもかかわらず朝から寝ている生徒、なにをやるのもダルそうであらゆることに無気力オーラを出し続けている生徒、いつも不機嫌で、人やモノにあたっていゆ生徒、顔色が悪く、保健室通いが日常茶飯事になっている生徒など、気になる生徒たちの様子の影響からだ。
家庭科を学ぶうちに、わかったことがあります。僕たちの暮らしは、食生活、住環境、被服環境、家族関係を始めとする人間関係、収入と支出という経済問題などが幾重にもつながりながら影響を与えあって成り立っているということです。どれかひとつでもバランスを欠いたりすると、暮らしはギクシャクします。そうなると暮らしのみならず、気持ちの安定を保つのも大変になります。逆に言うと、暮らしがある程度安定していれば、心もからだも穏やかでいられるし、考え方も前向きになって、がんばろう、がんばり続けようという意欲が湧いてくるということです。
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僕は家庭科を学んで、この教科なら生徒の悩みやクラスに寄り添いながら、一緒に考えたり悩んだりできるのではないかと思うようになりました。同時に家庭科では、調理を始め技術的なこともたくさん学びます。一人暮らしをすることになった時、何とかやっていける程度のものですが、木曽西身に付いていれば応用が可能です(僕のように基礎のないところから始めるより、よほど簡単です)。
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自分の暮らしを自分で整える力、それを「生活力」と僕は呼んでいます。「生活力」があると、毎日を気持ちよく暮らせます。少々のことがあっても、簡単にへこんだり、折れたりすることもありません。なぜなら、暮らしを切り盛りしてきた自信が、「なんとか生きていけるさ」という自信をも生み出すからです。それは僕で実証済みです
僕は、家庭科の教員になって生徒たちにまっさきに伝えたいと思ったのは、この「生活力を身につけろ!」です。なぜなら人生は自分で切り拓いてゆくものだからです。その大前提になるのが「生活力」です。自分の足ですっくと立って毎日を堂々と歩く……。格好いいでしょう。その強い味方になるのが家庭科です。自分の足ですっくと立つ力を、家庭科を通してより具体的に伝えたいと思っています。そして読者のみなさんには、毎日の生活を振り返りながら、自分の生き方に役立つ技術や考え方を一つでも多く身につけて、生きることを存分に楽しんでもらいたい。この本がその役に立てることを強く願っています。
そういう意味で家庭科で取り組む4つの自立は、長い人生においてとても役に立つものだと思うし、支援学校からこの「自立活動」という概念が発信され、広がっていけばいいなと思う。
ちなみに題名の正しパンツのたたみ方は、妻のパンツのたたみ方がうまくできなくて、自分が洗濯物をたたむたびに妻に「また違ってる…」と言われるのが辛いという悩み相談が由来です。唯一正解の正しいたたみ方がある訳ではなく、家庭科はお互いの違いを知る教科でもあるという話です。我が家の妻はこだわらない派でしたが笑